高齢者虐待とは?5つの種類と虐待を起きる背景をわかりやすく解説  | ケアプラ 読み込まれました

高齢者虐待とは?5つの種類と虐待を起きる背景をわかりやすく解説

更新日:

2024年8月29日

森永 大樹

この記事について

この記事では高齢者虐待についてわかりやすく紹介していきます。高齢者虐待の種類から虐待が起こる介護現場の背景まで紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

この記事のポイント3点

・高齢者虐待の種類
・高齢者虐待が起こる背景
・高齢者虐待の法的な責任

この記事では高齢者虐待についてわかりやすく紹介していきます。


「高齢者虐待にはどんな種類があるの?」

「高齢者虐待が起こってしまう背景は?」

「高齢者虐待が起こった場合の法的な責任は?」


こんな疑問がある人はぜひこの記事を読んでください。

読み終わった頃には高齢者虐待について理解でき、不安が解消されると思います。

最後までご覧ください。


高齢者虐待とは?わかりやすく解説

はじめに高齢者虐待について、概要を紹介していきます。

日本における高齢者虐待の現状も紹介していますので、参考にしてみてください。


高齢者虐待とは

高齢者虐待とは家族や親族、介護職員による高齢者の虐待を指します。


種類は大きく分けて以下の5つです。

  • 身体的虐待

  • 心理的虐待

  • 経済的虐待

  • 性的虐待

  • ネグレクト

※詳細は3章「高齢者虐待5つの種類」で解説しています。


高齢者虐待の現状

日本では実際にどのくらいの高齢者虐待が起こっているのか、国の調査を用いて解説していきます。

介護施設の職員と家族や親族による高齢者虐待の数をそれぞれ紹介します。


介護施設の職員による高齢者虐待

介護施設の職員による高齢者虐待数は増加傾向にあります。


【介護施設の職員による高齢者虐待】

出典:厚生労働省「令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」


高齢者虐待だと判断された事例は2019年から2020年で644件→595件。

相談や通報の事例は2019年度から2020年度で2,267件→2,097件となっています。


日本では今後ますます高齢化が進んでいきます。

それに伴い、高齢者虐待の件数も増えていくことが懸念されます。


家族や親戚による高齢者虐待

次に家族や親族による高齢者虐待の件数を確認していきます。

家族や親戚からの虐待判断件数はやや増加傾向です。

相談件数は2015年以降、増加しています。


【家族や親戚による高齢者虐待】

出典:厚生労働省「令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」


高齢者虐待だと判断された事例は2019年から2020年で16,928件→17,281件。

相談や通報の件数は2019年度から2020年度で34,057件→35,774件となっています。

介護施設の職員よりも家族や親戚による虐待の方が圧倒的に多いです。


高齢者虐待に関する法律|高齢者虐待防止法

日本では高齢者虐待防止法という法律が2006年に施行されました。


高齢者虐待が問題となり、その対策として施行された法律になります。

これを機に、2007年度から高齢者虐待について毎年調査が行われるようになりました。


高齢者虐待防止法とは

この法律の目的として以下の内容が示されています。


この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。


出典:e-GOV法令検索「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」


高齢者を65歳以上の者と定義した上で、虐待の種類を以下のように定義付けしています。

  1. 養護者による高齢者虐待

  2. 養介護施設従事者等による高齢者虐待


出典:厚生労働省「Ⅰ高齢者虐待防止の基本」


高齢者虐待に対する直接的な対策だけでなく、養護者に対する支援までが含まれているのが特徴です。


通報の義務が法律に組み込まれた

高齢者虐待防止法では、通報の義務が明記されています。

高齢者虐待を発見した場合、その程度にかかわらず通報義務が生じます。


また、通報者が不利益を被ることの内容に以下のルールが定められました。

  • 通報などを行うことは、「守秘義務違反」にならない

  • 通報したことによって、解雇その他の不利益な扱いを受けない


通報したとしても不利益が出ないようにするための整備がされたのです。


高齢者虐待5つの種類

高齢者虐待の種類は大きく分けて以下の5つになります。

  • 身体的虐待

  • 心理的虐待

  • 経済的虐待

  • 性的虐待

  • ネグレクト


それぞれについて説明していきます。


身体的虐待

暴力的な行為により高齢者の身体に傷やアザ、痛みを与えるような行為です。

殴る、つねる、蹴る、無理やり食事を口に入れるなどが身体的虐待にあたります。

また、ベットに縛りつけたり、意図的に薬を過剰に服用させ抑制をするなども含まれます。


心理的虐待

高齢者が介護者によって精神的な苦痛を与えられることを指します。

怒鳴る、罵る、目の前で悪口をいうなどが心理的虐待に当たります。

また、嫌がらせを行ったりすることも含まれます。


経済的虐待

本人の承諾がないにもかかわらず、無断で財産を使用するような行為です。

生活費を渡さない、使わせないなども経済的虐待の例として挙げられます。


性的虐待

性的虐待とは高齢者本人が同意していないにもかかわらず、性的な行為をすることです。

実際に行っていなくても、そういった性的な行為を強要することだけでも虐待になります。


ネグレクト

高齢者に必要な介護サービスを利用させない、または介護をしないなどがあります。


介護しないの例としては

  • 入浴させず異臭がしたり、髪が伸び放題

  • 室内がゴミだらけなど劣悪な環境で生活させる

などが挙げられます。


意図的であるかどうかは問わず、高齢者の生活を悪化させることが虐待になります。


高齢者虐待の程度

高齢者虐待の程度は大きく分けて以下の3つになります。

  • 緊急性

  • 要介入

  • 支援


それぞれについて説明していきます。


緊急性

緊急性とは高齢者の生命にかかわる重大な危機のことです。


具体的には、高齢者に対して殴る蹴るなどの暴力をふるうなどの行為が挙げられます。

介護が不十分で意識不明や衰弱などを引き起こし、緊急入院をするようなことがあります。

この場合は、医師や看護師などによる介入が必要になります。


要介入

要介入は現状のままでは、高齢者の状態に大きな影響を及ぼす可能性があるという状況を指します。


  • 介護者が通帳から勝手にお金を引き出し、パチンコに毎日通う

  • 食事はコンビニ弁当を1日1食だけしか用意しない


このような行為が要介入の事例としては多いです。

高齢者の状態が寝たきりに近いところまで落ちるようなケースが当てはまります。


要見守り・支援

要見守り・支援は高齢者への影響が部分的、または表面上に現れていない状況を指します。

病気に関する知識が少ない介護者が、無理な動きを強要してしまうなどが例としてはあります。

こういった行為が続くと、高齢者は自信をなくし、引きこもりがちになってしまう可能性もあるんです。

原因としては介護者の知識不足などが多いです。


介護職員が高齢者虐待を起こす3つの背景

介護職員が高齢者虐待を起こす3つの背景は以下の通りです。

  • 教育の不足

  • 職場への不満

  • 多忙な労働環境


それぞれについて、詳しく解説していきます。


教育の不足

介護職員が虐待を起こす背景の1つ目は教育の不足です。

施設の介護職員は多忙な場合が多く、新入職の職員を教育する時間が限られてしまいます。

社会人として十分な教育を受けることができず、高齢者虐待に繋がってしまう可能性があります。


教育の不足により、介護職員は高齢者と適切に関わることができなくなり、無自覚のうちに高齢者虐待を行うことがあります。

多忙な業界ではありますが、十分な教育機会が得られているか見直してみましょう。


職場への不満

介護職員が虐待を起こす背景の2つ目は職場への不満です。

人間関係や給料など職場への不満がある介護職員は多くいます。


普段はなんとも思わないような高齢者の言動も、職場への不満がある場合は気になってしまうものです。

それが原因となって高齢者虐待が起きる可能性もあります。


施設としては相談窓口の設置や職場への不満に耳を傾ける対策に取り組むことが重要です。


多忙な労働環境

多忙な労働環境も虐待を起こす背景の1つです。


介護職は夜勤があったり、介助量の多い人の介護をしたりと身体的にも負担が多い仕事です。

介護が必要な高齢者のためを思って業務を行っていても、時には暴言を吐かれてしまうことがあります。


普段から接遇を意識して業務を行おうと考えている職員であっても、業務負担が増え続けていくと正常な判断ができなくなってしまうものです。

そこに何かしらの小さなきっかけがあり、高齢者虐待が起こる可能性があります。


施設での高齢者虐待が明らかになった場合

施設での高齢者虐待が明らかになった場合に施設が行うべきことは以下の5つです。

  • 被害者の保護

  • 虐待を起こした職員の処遇決定

  • 被害者家族への連絡

  • 通報

  • 行政の立ち入り調査


それぞれについて、詳しく解説していきます。


被害者の保護

1つ目にすることは被害者の保護です。


何よりもまず被害者の保護が最優先になります。

身体的虐待を受けていた場合は、治療が必要な場合があります。

被害状況にもよりますが、医師や看護師の指示を仰ぐようにしましょう。


また、虐待で受けた傷は同じ環境にあることで悪化してしまうことがあります。

被害者に寄り添い、少しでも不安が和らぐ環境を提供するようにしましょう。


虐待を起こした職員の処遇決定

被害者の保護が終わったら、虐待を起こした職員の処遇決定をしていきます。


虐待を行った可能性がある職員は一度業務を停止させ、待機させます。

虐待の詳細を確認するために、聞き取りはその日のうちに行うようにしましょう。

被害者や他職員の話も確認しながら、虐待の詳細を把握していきます。


虐待の全容から職員の処遇決定を進めていきます。


被害者家族への連絡

3つ目にすることは被害者家族への連絡です。

虐待の全容が分かったら、まずは家族に連絡をします。


今回の虐待に対する謝罪と起こった事実を説明していきます。

被害者家族はいきなりの連絡でパニックになってしまうこともあります。

家族の気持ちを真摯に受け止め、順序立てて説明するようにしましょう。


今後の流れも説明することで少しでも不安を解消できる可能性があります。


通報

被害者家族への連絡をした後は市町村へ通報します。


高齢者虐待防止法では、介護施設で虐待が発覚した場合に市町村へ通報するよう定められています。

虐待が発覚した場合は市町村へ連絡し、その指示に従って行動するようにしましょう。


警察への通報は義務付けられていないため、慎重に行うようにしましょう。

通報することで大ごとになる可能性もあるため、家族の意向を確認して進めていきましょう。


行政の立ち入り調査

最後にすることは行政の立ち入り調査です。

市町村に通報後は、立ち入り調査が行われます。

職員への聴取調査の他、保管されている記録や報告書などが確認されます。


責任を持って、虐待の事実を説明するようにしましょう。


高齢者虐待が発生した場合の法的な責任

介護職員による高齢者虐待が起こると法的な責任も発生します。

虐待をした職員、介護事業所が負う責任をそれぞれ説明していきます。


高齢者虐待をした職員が負う責任

高齢者虐待をした職員が負う責任は以下の2つです。

  • 刑事責任

  • 民事責任

それぞれについて詳しく説明していきます。


刑事責任

暴行を加えた場合は暴行罪(刑法208条)として2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に、暴行を加えて怪我をさせた場合には傷害罪(刑法204条)として15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。


介護が必要にもかかわらずそれを放置した場合は、保護責任者遺棄罪(刑法218条)として、3月以上5年以下の懲役に処せられる場合もあります。


利用者の金銭等を許可なく使い込んだ場合は、窃盗罪(刑法235条)や業務上横領罪(刑法253条)が成立する可能性もあります。

出典:e-GOV法令検索「刑法」


民事責任

被害者に対して権利侵害行為を行い、損害が発生している場合は不法行為(民法709条)に基づいて、利用者に対して損害賠償義務を負うことになります。

出典:e-GOV法令検索「民法」


高齢者虐待をした施設が負う責任

高齢者虐待をした施設が負う責任は以下の3つです。

  • 刑事責任

  • 民事責任

  • 行政上の責任

それぞれについて詳しく説明していきます。


刑事責任

高齢者虐待において介護事業所自体が刑事責任に問われることはありません。


民事責任

介護職員が虐待を行い、損害を負わせた場合は介護事業所も損害賠償責任を負います(民法715条)。


行政上の責任

高齢者虐待の事実が明らかになると介護保険法による権限の行使として、以下が行われます。

  1. 改善勧告

  2. 改善命令

  3. 指定の効力の全部または一部停止

  4. 指定の取消し

 

「改善勧告」で期限内に文書による報告ができなければ、「改善命令」に移行します。

この命令に従わなかった場合は、「指定の効力の全部または一部停止」に進みます。

それでも是正されず、指定継続が看過できない場合は「指定の取り消し」が行われることになります。


施設で高齢者虐待を起こさない4つの対策

施設で高齢者虐待を起こさないためにも対策が必要になってきます。

この章では高齢者虐待を起こさない4つの対策を紹介していきます。


研修を開催する

施設の介護職員は多忙な場合が多く、新入職の職員を教育する時間が限られてしまいます。

教育が上手くいかず、それが原因で知識不足となり高齢者虐待が起こってしまうこともあります。


教育不足を防ぐために高齢者虐待についての研修を行うことは効果的です。

施設職員全員が共通の知識を得ることができ、高齢者虐待についての理解が深まります。

法的な責任についても触れることで、責任感も身につきます。

可能であれば、研修の講師としては専門家である弁護士に依頼するようにしましょう。


マニュアルを作成する

マニュアルを作成しておくことで高齢者虐待が起きる可能性を下げることができます。

1度研修を受けたとしても、何ヶ月後かには忘れてしまう可能性があります。


何度でも読み返せるように研修内容も含めたマニュアルを作成するようにしましょう。

中身としては虐待の種類や具体的な事例、虐待が起きそうな場面での対処法などが必要です。


職員のストレスケアを行う

高齢者虐待を防ぐために職員のストレスケアも大切になってきます。

虐待が起こる大きな原因として、何かしらのストレスが関係しています。

ストレスが溜まると、その捌け口として高齢者虐待が起きてしまうケースもあります。


それを防ぐためにもストレスケアが重要になるんです。

職場で悩みの相談窓口を作る、または悩み相談のため声をかける。

これだけでも職場の雰囲気は大きく変わってきます。


職場環境の改善をする

人手不足や業務量の増加は、介護職員に大きな負担がかかります。

そんな状態では、間違った判断をしてしまう可能性が高くなります。

これを防ぐために職場環境の改善は必要になってくるのです。


なかなか人員不足を解消するのは難しいですが、少しでも業務量を軽減するために

  • 記録や書類の電子化を進める

  • 業務の無駄を省く

  • 見守り機器を導入する

などの対策が有効になってきます。


高齢者虐待の事例

最後に高齢者虐待の事例を紹介していきます。

以下に示す事例は「東京都福祉局」が紹介しているものになります。

【事例A】緊急×身体、心理、放棄・放任

重い認知症の母親(83才)を抱えて7年間介護を続けてきた息子は、他に誰も介護を支える人がいないため、介護ストレスを抱え、殴る蹴るなどの暴力をふるっていました。

徐々に、日常の世話も不十分になり、脱水症状と栄養失調を引き起こし、緊急入院することとなりました。


【事例B】要介入×経済、放棄・放任

息子と二人暮しの母親Wさん(81才)は、息子の介護を受けながら生活していますが、息子がWさんの通帳から勝手にお金を引き出し、パチンコに通う毎日。

ケアマネジャーがすすめても介護サービスを利用せず、食事も一日一回だけコンビニ弁当を買い与えるだけという生活のため、Wさんの健康状態は寝たきりに近い状態まで悪化しています。


【事例C】要見守り・支援×身体、心理

パーキンソン病のSさん(76才)の介護をする夫のYさん。病気に関する知識が不十分なために、本人は悪気がないものの、Sさんに無理な動きを強要してしまいます。

また、思うように体が動かないSさんにイライラして、いつも怒鳴り声を挙げてしまうため、Sさんは自信を無くし、引きこもりがちになってしまいました。


出典:東京都福祉局「虐待の種類と程度」


まとめ

この記事では高齢者虐待について、わかりやすく解説してきました。

高齢者虐待は年々増加傾向にあり、早急な対策が必要になってきています。


虐待が起こった場合は、個人と施設両方で責任を負う場合があります。

施設で高齢者虐待を起こさない対策を実践してみてください。


監修者

森永 大樹

エジスト株式会社 代表取締役

2018年大学卒業後、レバレジーズ株式会社に入社し、介護事業部の営業を担当。2020年に退職後、エジスト株式会社を設立し、介護・医療業界特化メディア、採用支援サービスのケアプラを運営する。

執筆者

朝水 裕一

施設長ケアマネ・Webライター

元施設長の経験を持ち、現在も常勤ケアマネをしながら、介護業界専門ライターとしてコンテンツ制作100本以上の実績を持つ。現役ケアマネージャー・元施設長・介護福祉士の視点から、わかりやすい文章で読者の心に寄り添う記事制作を得意としている。

よく読まれている記事

    おすすめお役立ち資料

      ホーム記事一覧

      高齢者虐待とは?5つの種類と虐待を起きる背景をわかりやすく解説

      資料請求

      ケアプラのサービス資料をダウンロードいただけます。採用マーケティング支援や医療介護特化のSNS運用代行サービスをご検討の方はぜひご一読ください。

      資料請求をする

      YouTube

      介護医療業界で役立つ採用手法や集客(マーケティング)・Web、SNS運用のノウハウをはじめとして、セミナー開催情報、支援事例などをお届けします。

      YouTubeチャンネルを見る

      ご相談・お問い合わせ

      お客様の採用や集客における課題解決をケアプラの多くの業界特化での事例をもとにサポートします。お気軽にご相談ください。

      まずは相談する