介護の法令遵守とは|違反事例とマニュアル・研修のつくり方を解説

介護におけるコンプライアンス(法令遵守)とは?基本的な内容について
ここでは、介護におけるコンプライアンスの内容について3つを紹介します。具体的には、
- 基本的な内容
- 重要性
- 違反したら有罪になる?
の3つです。それでは順番に解説していきます。
基本的な内容
コンプライアンスとは、法律や規則を守りつつ、適切なサービスを提供することです。介護保険法や老人福祉法、労働基準法などの法律に従い、利用者やスタッフの権利を尊重して、適正な介護サービスを提供することが求められます。
具体的には、適切な介護報酬の請求や介護保険法で義務付けられている社内研修の実施などがあります。コンプライアンスを徹底するためには、日常業務でルールを守ることはもちろん、定期的な研修を通じて、職員全員が理解し実践することが重要です。
重要性
介護サービスは利用者の命や健康に直接関わるため、安全で適切なサービスを提供することが重要です。また、介護報酬は税金や保険料を財源としているため、適正な運用が求められます。
法令を守らない場合、介護事業所の指定が取り消され、事業の継続が困難になることもあります。したがって、介護におけるコンプライアンスは、事業運営においても重要な要素なのです。
違反したら有罪になる?
法令を守らなければ、厳しい罰を受けることがあります。例えば、介護報酬の不正請求を行うと、事業所の指定認可が取り消される可能性があるのです。また、利用者への虐待があった場合には、行政からの指導対象となり、マスコミに公表されることで法人・事業所の信用を失うことになります。
その結果、稼働率の低下やスタッフの退職が相次ぎ、事業の継続が難しくなることが予想されます。このように、法令違反は介護事業所の信用を失うだけでなく、事業の存続を危うくします。したがって、法令を守り、適切な介護を行うことが重要です。
介護におけるコンプライアンス違反の事例をケース別に紹介
ここでは、介護業務でのコンプライアンス違反事例をケース別に紹介します。
ケース①利用者や家族
利用者や家族へのコンプライアンス違反として、介護報酬の不正請求や利用者の人格尊重義務違反があります。それぞれについて詳しく解説します。
介護報酬の不正請求
実際には行っていないサービスを提供したと偽り、報酬を請求する行為です。重大なコンプライアンス違反であり、発覚した場合には、指定取消し処分を受けるだけでなく、これまで不正に得た介護報酬の返還、課徴金の徴収処分を受けることもあります。
また、悪意はなくても記録管理が不十分なために、提供していないサービスを誤って請求してしまい、実地指導で発覚するケースもあります。
利用者の人格尊重義務違反
介護保険制度では、高齢者の人格や人権を尊重することが定められています。よって、利用者の人格を尊重しない行為は、コンプライアンス違反となるのです。例えば、利用者に対する不適切な言葉遣いやプライバシーの侵害が挙げられます。
例えば、利用者を「ちゃん付け」で呼ぶ行為は、親しみを込めているつもりでも、利用者や家族の尊厳を傷つけているかもしれません。介護職員は利用者一人ひとりの人格や意志を尊重し、丁寧な対応を心掛けることが求められます。
ケース②施設・スタッフ
ここでは、施設やスタッフに対するコンプライアンス違反について詳しく解説します。
サービス残業
サービス残業とは、規定の労働時間を超えて働いても、適切な賃金が支払われない状況のことです。介護業界では、サービス残業が多くみられる傾向にあります。例えば、施設スタッフが人手不足のため、毎日残業を余儀なくされていたとします。
しかし、上司から「残業時間が多いと施設長に叱られるから、実際より少ない時間を申告してほしい」と指示されるようなケースです。このような行為は労働基準法に違反しています。法令を守るためには、勤務時間を正確に記録し、必要に応じて適切な賃金を支払う仕組みづくりが必要です。
長時間労働
労働基準法では、職員の労働時間は原則として1日8時間、1週間に40時間を超えてはいけません。ただし、労使協定である36協定を結ぶことで、これを超える労働も可能になります。
しかし、36協定があっても、月の残業時間は基本的に45時間が上限であり、100時間の残業は違法です。守らなければ、事業所が罰則を受ける可能性があります。また、長時間労働は職員の離職率を上げ、結果として人手不足を招く原因にもなります。
処分の件数や処分事由の内訳は、厚生労働省の公表統計で確認できます。令和6年度の統計と条文の対応は、介護のコンプライアンス違反事例|行政処分の類型と事業所の点検項目にまとめています。
介護業界でコンプライアンス違反に該当する法令について
ここでは、介護業界でコンプライアンス違反に該当する法令について紹介します。
介護保険法
介護保険法は、高齢者が必要な介護サービスを公平に受けるための法律です。コンプライアンスの面では、具体的に以下のような内容を守ることが求められます。
- 個人情報の保護
- 人格の尊重
- 適切な請求
介護保険法に違反したことが発覚すると、罰金や指定取り消しなどの行政処分を受けることがあります。
出典:e-Gov法令検索「介護保険法」(指定の取消し・効力の停止は第77条ほか)
老人福祉法
老人福祉法は、高齢者福祉を総合的に支援するための法律です。高齢者が尊厳を持って生活できるよう、必要なサービスを提供することを目的としています。
老人福祉法は、以下のことを理念としています。
- 高齢者の生活を安定させる
- 健康を維持する
- 社会参加を促す
老人福祉法に違反した場合は、改善命令が出され、それでも改善されない場合には事業停止命令が下されます。
参考:全国老人ホーム協会「行政処分・罰則について」
高齢者虐待防止法
高齢者虐待防止法は、高齢者が虐待を受けないようにするための法律です。この法律は、家庭内だけでなく介護施設も対象としています。
具体的には、以下のようなケースです。
- 身体的虐待
- 心理的虐待
- 経済的虐待
- ネグレクト(放置)
- 性的虐待
この法律には通報の義務や市町村の対応が定められていますが、虐待をした職員を直接罰する規定は置かれていません。この法律の罰則は、市町村から対応事務の委託を受けた者が正当な理由なく職務上知り得た秘密を漏らした場合(第17条第2項違反)の1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(第29条)と、立入調査を拒み、妨げ、もしくは虚偽の答弁をした場合の30万円以下の罰金(第30条)です。
虐待の行為そのものは、内容によって暴行罪・傷害罪・保護責任者遺棄罪・窃盗罪などにあたり、刑法上の刑事責任を問われることがあります。事業所に対しては、介護保険法にもとづき、勧告・命令から指定の効力停止・取消しまでの行政処分が行われる場合があります(介護保険法第77条ほか)。
※2025年6月1日施行の刑法改正により、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されました。
出典:e-Gov法令検索「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」第17条・第29条・第30条/e-Gov法令検索「刑法」
虐待の5つの種類と、現場で虐待が起きてしまう背景は高齢者虐待とは|5つの種類と虐待が起きる背景で詳しく解説しています。
個人情報保護法
コンプライアンスの中でも、個人情報保護法を守ることは特に重要です。個人情報保護法は、利用者の個人情報を適切に管理し、情報の漏洩や不正利用を防ぐための法律です。介護事業所では、利用者の健康情報や生活状況など多くの個人情報を扱うため、これらの情報を厳重に管理する必要があります。
具体的には、介護事業所が「個人情報を何の目的で取得・利用するのか」を理解することが重要です。また、取得した個人情報は厳重に管理し、あらかじめ本人の同意を得た場合や法令にもとづく場合などを除き、特定した利用目的の範囲を超えて使用してはいけません(法第18条)。
違反が見つかった場合は、個人情報保護委員会からの指導・勧告を経て命令が出され、その命令に違反したときに1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます(法第178条)。法人の場合は両罰規定により、あわせて1億円以下の罰金が科されることがあります。
ただし、緊急を要する場合は勧告を経ずに命令が出されることがあり、委員会への報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合も別に罰則の対象です。
出典:個人情報保護委員会「個人情報取扱事業者等が個人情報保護法に違反した場合、どのような措置が採られるのですか。」
労働基準法
労働基準法は、労働時間や休憩時間、休日、有給休暇などの労働条件を定めています。労働基準法違反の例として、法令に違反するような長時間労働や、正当な理由のない有給休暇の拒否などがあります。
労働基準法に違反した場合には、労働基準監督署の調査が入ります。労働基準法に違反しているとみなされた場合には、是正勧告が行われます。それでも是正されなければ送検・起訴・起訴などの司法処分が行われます。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」/厚生労働省「全国労働基準監督署の所在案内」
指針・記録・研修の整備状況を一つずつ棚卸ししておくと、抜けに気づきやすくなります。項目は一般的な確認事項をまとめたもので、実際に求められる内容は所管の自治体の基準をご確認ください。実地指導 事前点検リストを無料で受け取る
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コンプライアンスを守る組織をつくる方法を紹介!
ここでは、コンプライアンスを守る組織をつくるための方法を紹介いたします。
まず確認する:運営基準で整備が義務づけられている指針
マニュアルを一から考える前に、まず運営基準(省令)で整備が義務づけられている指針を確認します。何を盛り込むかは、ここから逆算するのが最短です。
介護事業者には、指針をつくって終わりではなく、「指針の整備」「委員会の開催」「研修の実施」がセットで求められています。次の表は、特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)の基準で義務づけられている内容です。
項目 | 義務づけられている内容 | 根拠となる条文 |
|---|---|---|
虐待の防止 | 委員会の定期的な開催/指針の整備/従業者への研修の定期的な実施/担当者を置くこと | 第35条の2 |
身体的拘束等の適正化 | 委員会を3か月に1回以上開催/指針の整備/従業者への研修の定期的な実施 | 第11条第6項(ユニット型は第42条第8項) |
感染症・食中毒の予防およびまん延の防止 | 委員会をおおむね3か月に1回以上開催/指針の整備/従業者への研修および訓練の定期的な実施 | 第27条第2項 |
業務継続計画(BCP) | 計画の策定/従業者への周知/研修および訓練の定期的な実施/計画の定期的な見直し | 第24条の2 |
事故発生の防止 | 指針の整備/事故発生時の対応体制の整備/委員会および研修の定期的な実施/担当者を置くこと | 第35条第1項 |
出典:厚生労働省 法令等データベース「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年3月31日厚生省令第39号)
この表は特別養護老人ホームの基準です。訪問介護・通所介護・グループホームなどは、それぞれ別の省令で定められており、条番号も異なります。自事業所のサービス種別の基準を確認してください。ただし、指針・委員会・研修の3点セットで求められるという構造は共通しています。
ここから逆算すると、コンプライアンスのマニュアルに最低限そろえるべき文書がはっきりします。次の5つです。
- 虐待防止の指針
- 身体的拘束等の適正化の指針
- 感染症・食中毒の予防およびまん延防止の指針
- 業務継続計画(BCP)
- 事故発生防止の指針
加えて、それぞれについて「誰が担当か」「委員会をいつ開くか」「研修と訓練をいつ実施するか」を年間の予定表として1枚にまとめておくと、運営指導(2022年度に実地指導から名称が変わったもの)の際にも説明しやすくなります。
逆に言えば、指針が整備されていない状態は、現場の運用が良くても基準を満たしていないと判断される可能性があります。まずは自事業所のサービス種別の基準に照らして、該当する指針が実在するか、そして直近の委員会と研修の記録が残っているかを確認するところから始めてください。
整備した指針や記録が実際にどう確認されるのかは、実地指導とは|準備すべき書類と、行政処分を受けないための対策で解説しています。
マニュアル
コンプライアンスを守るためのマニュアル作成について、詳しく説明していきます。
表現は明確にする
マニュアルを作成する際には、表現を明確にすることが大切です。曖昧な表現は使用せず、読む人によって解釈に差が出ないようにしましょう。例えば、利用者への対応では、「名前を呼び、目線を合わせて話す」といった具体的な指示を書きます。
また、実践的なマニュアルを作成するためには、事前にスタッフから意見を集めて、どのような項目を盛り込むかを検討することが重要です。こうすることで、現場の声が反映された、実用的なマニュアルを作成できます。
方向性を統一する
マニュアル作成においては、全職員が同じ方向を向いて行動できるようにすることが目標です。マニュアルの目的や基本方針をはっきり示し、全員が理解できるようにしましょう。
地域貢献や利用者を最優先に考える姿勢など、施設の理念に沿って作成することも重要です。そのためには、マニュアルの内容をわかりやすく整理し、誰でもすぐに理解できるよう工夫することが求められます。また、定期的にマニュアルを見直し、職員からの意見を取り入れて、現場の状況に合った実用的なものにしていくことも大切です。
例外を設けない
コンプライアンスにおいては、例外を設けないことが重要です。介護業務においては、様々なケースがあり、臨機応変に行動することも求められます。しかし、マニュアルに例外を設けるとルールが曖昧になり、職員がどのように行動すればよいのか混乱する可能性があるのです。
特定の状況ではルールを守らなくてもよいといった例外を作ると、その範囲が広がり、マニュアルが形だけになってしまう恐れがあります。すべての職員が同じ基準で行動できるように、例外を設けず一貫したルールを定めることが大切です。
外注する
マニュアル作成を、外部に依頼することも有効です。施設内では介護観が固定化し、利用者への対応方法などが偏ってしまうことがあります。第三者の視点を取り入れることで、より客観的に見直すことが可能です。
また、外注することで社内のリソースを効率的に活用し、本業に集中できるというメリットもあります。
定期的な研修
コンプライアンスを守るためには、定期的な研修が必要です。ここでは、3つの研修について紹介します。
OJT(日常業務の中で行う研修)
OJT(On-the-Job Training)は、日常の業務を行いながらスキルや知識を学ぶ研修方法です。OJTは、現場というリアルな状況で学べるため、実践に結びつけやすいメリットがあります。
例えば、入社歴の浅いスタッフが現場リーダーと共に業務をこなすことで、根拠に基づいた介助を身につけられます。また、OJTを通じて職員同士のコミュニケーションが深まり、チーム全体のスキル向上にもつながるメリットがあるのです。
OFF‐JT(日常業務から離れて行う研修)
OFF-JT(Off The Job Training)とは、日常の業務から離れて行う研修のことです。通常の業務を離れて学ぶことで、新しいスキルや知識を習得できます。
例えば、セミナーや講習会に参加したり、外部の講師を招いて研修を行うことで、職員は新たな視点を持ち、コンプライアンスに関する理解を深めることも可能です。また、他施設の職員との交流を通じて、さまざまな事例や対策を学べるメリットもあります。
SDS(自己啓発援助制度)
SDS(Self-Development-System)は、職員が自主的に学び成長することをサポートする制度です。具体的には、施設が職員の自己啓発活動を認め、経済的な援助をしたり、施設を利用できるようにしたりします。SDSは、職員の自己啓発を促進し、職場全体のスキルアップやモチベーション向上にも貢献します。
スタッフ間のコミュニケーション
介護事業所でコンプライアンスを徹底するには、スタッフ間のコミュニケーションが欠かせません。チームの統一性を保つために、日常業務で疑問や問題が生じたときには、すぐに相談できる環境を整えることが重要です。
しかし、忙しい現場では十分なコミュニケーションをとることが難しい場合もあります。だからこそ、定期的なミーティングや勉強会を開催することが大切です。こうした機会を設けることで、スタッフ全員が最新の情報を共有し、互いにサポートし合える環境を作れます。
内部監査
内部監査の目的は、事業所内の業務がコンプライアンスに従って、適切に行われているかをチェックすることにあります。例えば、介護報酬の請求手続きや利用者の記録管理、職員の労働環境などです。
内部監査を行うことで、法令違反のリスクを早い段階で見つけ、必要な改善を行えます。また、内部監査は職員のコンプライアンスへの意識を高める効果もあります。内部監査は、安全で質の高いサービスを提供するために欠かせない取り組みなのです。
指針の整備や研修が後回しになる背景には、人手が足りず通常業務で手一杯という事情もあります。採用と定着の面から立て直したい場合は、介護業界における人手不足の現状と、今からできる対策もあわせてご覧ください。
体制づくりや採用についての個別のご相談は、ケアプラの無料相談で承っています。
研修の年間計画・記録の残し方・研修資料の作り方は、介護のコンプライアンス研修の設計と記録を整理した記事で詳しく解説しています。
まとめ
介護におけるコンプライアンスは、利用者の安全と権利を守るために欠かせないものです。法令を守ることで、介護サービスの質を高め、利用者や家族に安心感を与えられます。
介護報酬は、税金や保険料を財源としているため、適正な運営を行うことが重要です。コンプライアンスを徹底するには、日常業務でのルールの遵守に加え、定期的な研修やマニュアルの整備が必要です。
介護事業所が一丸となって法令遵守に取り組むことで、健全な職場環境を維持し、質の高いサービスを提供できます。
監修者

森永 大樹
エジスト株式会社 代表取締役
2018年大学卒業後、レバレジーズ株式会社に入社し、介護事業部の営業を担当。2020年に退職後、エジスト株式会社を設立し、介護・医療業界特化メディア、採用支援サービスのケアプラを運営する。

